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 俳句の壺エッセイ
 第3回 万太郎という入り江
(2021年4月掲載)

 
宮崎 洋(春燈)
 
【i句会】春燈i句会(通称i句会)は、春燈俳句会の運営するインターネット句会です。指導者を置かずに、互選のみ。会員が平等な立場で参加し交流する会です。会費は無料。句会は月例。投句数3句、選句数5句。投句期間・選句期間はともに1週間。

2021年3月10日現在会員数68名。春燈のホームページで広く俳句愛好者に向けて会員を募集しており、結社春燈以外の方が半数以上に達しています。「俳句の壺」参加チームの中で会員数最多のようです。

【あゆみ】i句会は2017年7月7日に誕生。本部句会をはじめ全国に月例句会はあるものの、時間的制約・距離的制約のため句会に出席する機会の少なかった会員と句座を共にしたい、春燈以外の方たちと交流を深めたい、ホームページとの相乗効果で春燈の発信力を強化したいという思いからスタートしました。「i」は、インターネットの「i」。私の「I」。星合の「合」。「愛」でもあります。

当初は春燈のホームページに句会のページを設け、投句・清記表の開示・結果発表を行っていました。世話係は Excel で清記表・結果発表を作成し、ホームページにアップロードしなければなりません。投句締切と清記表開示の間、選句締切と結果発表の間に数日世話人の作業日が必要でしたので、投句から結果発表までほぼひと月かかりました。

Excel の作業はできるだけ見やすく綺麗に仕上げようとすると、相当な根気と時間を要します。2018年12月、「俳句の壺」に出会ったときは地獄で仏の思いでした。その後「俳句の壺」のお陰ですが、春燈以外の会員の増加が顕著です。

3月より月例句会とは別に「一夜句会(ひとよくかい)」を始めました。一年に数回日を選んで、夕方に投句締切、3時間後に選句締切・結果発表を行うリアルタイム句会です。第一回目は3月3日に「雛祭」をテーマにして開催。40名が参加しました。

【特色】i句会の特色のひとつが、匿名性でしょう。立ち上げ時、春燈とは別の俳号を使うことを認めました。春燈の中とは別人格になって俳句を楽しもうという、ちょっとした遊び心。変身願望あるいは冒険願望。ただし、顔が見えてこその句座であるという反対意見もありました。春燈と同じ俳号で参加している会員も少数ながらいます。

そしてまた春燈以外の方も匿名性を持っています。管理上本名・住所・電話番号を伺いますが、世話係しか知りません。新参加者は俳号と県名のみを紹介します。中には知り合いの方もいるでしょうが、ほとんどの方は自分以外は分からない筈です。そのような会員同士の句会。いわば「仮面舞踏会」です。

仮面を付けている、素顔を他人に晒さないからと言って、別人の俳句になることはあり得ないのですが、結社の句座より少し冒険をするという楽しみ方が可能なのでしょう。i句会は個性豊かな、中々質の高い句会と自負しております。

【未来】俳句の壺エッセイの主催者からのリクエストは「ネット俳句の未来」でありました。

コロナ禍において、ネット俳句は増えていますし、今後ますます隆盛となるでしょう。リアル句会の代替です。zoom を併用すれば顔の見える句会となります。それは距離の制約を取り払ってくれるので、遠距離の人も参加しやすく、旅行中の人も欠席投句の必要がなくなります。

加えてネット句会を経験して再発見したのが、文字の力です。当句会は選句した句へのコメントは必須です。選句しなかった句へのコメント、結果発表後のコメントも奨励しています。自分の思いを整理し文字にすることで、また文字を読むことで、より深く俳句を味わい楽しむことができます。顔を合わせる句会、顔の見える句会と同様、文字に思いを込める句会も俳句の未来の一つに加えていいでしょう。

i句会の紹介は春燈のホームページの中にあり、入会申請はそこから行います。ホームページは毎月更新しますが、常に掲載しているものに、久保田万太郎の「創刊のことば」があります。すなわち入会者は全員万太郎の俳句を愛している方でしょう。i句会の吸引力は万太郎であるわけです。

俳句の壺エッセイ第二回の吉田林檎氏は「ネットは大海原、結社は港」と、ネット俳句と結社の関係を的確に把握されています。この論を勝手に借用すれば、i句会は入り江、湾に例えることができそうです。港ではありません。指導者はおりません。しかしながら大海原ではありません。超結社の句会ではありません。大海原の荒波を避けて、万太郎の俳句を愛する者が集う場所、入り江のようなところです。ひととき港を離れ仮面を被った春燈会員と春燈以外の方が、ともにこの「万太郎という入り江」を自由に回遊して俳句を楽しんでいるのです。

このような入り江に例えられるネット句会が他にあるかは分かりませんが、未来に残し発展させるべき俳句の楽しみ方であると言えるでしょう。



宮崎 洋
1951年三重県生まれ。鎌倉市在住。春燈俳句会同人。俳人協会会員。
過去のエッセイ集