俳句の壺エッセイ 第8回 秘めたる可能性 (2021年9月掲載)
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大西 朋(鷹・晨) | |
かれこれ10年余り前のことだろうか。基本的に俳句は対面句会が中心であるが、メールや掲示板、SNSを使って句会を運営しているグループがすでに沢山存在していた。私自身もそんな句会にいくつか参加していたのだが、持ちまわりで幹事を担当するにあたって、毎回みんなからメールで投句や選句されたものを管理、集計するのが大変で、家人にお願いしたところ、できあがったのが「俳句の壺」であった。 またこのようなシステムを考えて貰った背景には、ちょうどその頃しばらく日本を離れることになり、対面句会には参加することができないので、時差などを気にせず参加できる句会が開催できればということもあった。 以前より「俳句の壺」を利用して幾つか句会を行っていたが、新型コロナウイルスの蔓延によって、対面句会が行えない状況の中で、「夏雲システム」や「俳句の壺」そしてzoomなどを組み合わせた句会が一気に増えることとなった。 システムを使った句会の利点は何よりも管理が簡単なこと。幹事も句会に集中することができるのだ。また時間の都合や遠隔地で対面句会には参加できなかった人々が時空を超えて手軽に参加できることも大きい。 所属する結社「鷹」ではお互いに俳句を向上させるために五人会という体制がある。これは地域毎に先輩同人が中心となって新しく入った会員などと10人未満のグループを作り、句会を通して指導するというものだ。この句会は鷹に入会すれば事務局から住む地域に適した句会を紹介して貰うことができる。 基本的には住んでいる地域の近くの会に入会し、定期的に対面句会を行うというものだが、遠隔地に住んでいて近くに鷹の会員がいない場合もあるだろう。特に海外在住者は五人会に入ることができないでいた。そこで、遠隔地五人会が認められることとなり、私がその一句会をインターネットを使って担当することとなった。 それからずっとカナダのオタワ、スペインのマラガ、北海道、青森、秋田、大分のメンバーで俳句の壺を使って毎月の句会を行っている。対面の句会では絶対にできない座組である。 コロナ以前からこのような取り組みを通して、近くに句会がないということで俳句を作りたいという意欲が無くならないようにすることの重要性を感じていた。物理的な距離や時間の問題を解決する方法としてインターネットで句会を行うことの利便性を感じていた。なので、コロナによって何となくこれまで躊躇、敬遠されていたシステムを使っての句会が認知されるようになったのは喜ばしいことである。 もちろん課題もある。特に吟行句会は句座が持つ独特の緊張感や一体感が醍醐味だが、システムではこの緊張感を生み出すことができない。zoomで顔を見ながら声を聞きながら句会をしても何か物足りない。少しでもリアルと同じ緊張感を作り出すためにはどうすればいいのだろうか。今も模索中である。 一案としては、例えばパソコンの前で吟行地の映像を共有しながら吟行が行えないか。旅行業界ではすでに行われている試みであり、色々な施設も動画を配信している。例えばYoutubeで「淡路島モンキーセンター」で検索すると猿が動き回るライブ映像を見ることができる。こういった映像が句材にならないだろうか。 YouTubeで「ライブカメラ」で検索すると東京駅や浅草寺、草津温泉湯畑の今を見ることができる。何ならベネチアの今も見ることができるし、NASAが提供している宇宙から見た地球も手軽に見ることができる。こういった中から同じ映像を見ながら2時間で俳句を作る。そうすると視界が共有されてもっと緊張感のある句会にならないだろうか? あとは課題というよりは嬉しい悲鳴、と言えなくもないが、対面句会が再開された時に、代替として発生したネット句会がそのまま残り、どんどん句会が増えていくことである。それは各自が腹をくくって続けるか、止めるかを選ぶことになるであろうがシステムを使って句会をしている人々はやはりそのままネット句会を続けるのではないかというのが私の予想である。 俳句の五七五という世界は物事を的確に把握する能力を育てつつ、常にどこでもできる最先端かつ究極の文芸ではないかと私は思っている。句会は匿名性であるが故、ある種のゲーム性があり、刺激を与えてくれる場となっている。日本独自のソーシャルネットワークになりうるのではないだろうか。 可能性は無限大である。このコロナ禍を契機として俳句の世界がどう進むのか、少し楽しみでもある。 | |
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大西 朋 1972年大阪府生まれ。つくば市在住。2006年晨入会、宇佐美魚目先生に師事。2010年鷹入会、小川軽舟先生に師事。2016年第4回星野立子新人賞受賞。2017年第一句集『片白草』上梓。2018年第41回俳人協会新人賞受賞。鷹同人、晨同人、俳人協会幹事。 |
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